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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)3393号 判決 1989年9月14日

主文

一  別紙被告目録一ないし一〇記載の被告らは各自別紙原告目録記載の原告に対し、別表1、2記載の被告らに対応する各請求額欄記載の金員及びこれに対する平成元年二月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

主文と同旨。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  当事者

1 原告は、昭和六〇年七月一日午後一時、大阪地方裁判所において破産宣告を受けた豊田商事株式会社(以下、「豊田商事」という。)の唯一の破産管財人である。

2 別紙被告目録一ないし一〇記載の被告ら(以下、「被告ら」という。)は豊田商事の元営業管理職又は営業社員(以下、両者を「営業担当者」という。)である。

二  歩合報酬の支払合意

1 豊田商事は、昭和五六年四月の設立後間もなくから破産に至るまでの間、金地金の売買と純金ファミリー契約(以下、両契約を「本件契約」という。)とを組み合わせた商法(以下、「本件商法」という。)をその営業内容としていた。この純金ファミリー契約とは、客が豊田商事から購入する金地金を同社に預け(ただし、契約書上は「賃貸借」と表示されている。)、一年又は五年後に同種、同量の純金を返還するとともに、その間、毎年賃借料として一年契約の場合には購入価格の一〇パーセント相当額を契約時に、五年契約の場合には購入価格の一五パーセント相当額を契約時及びその後の各年の各始期に支払うとの契約である。

2 被告らは、豊田商事との間で、営業活動の成果に応じて豊田商事所定の基準による歩合報酬(以下、「本件歩合報酬」という。)を支給されるとの合意(以下、「本件歩合報酬支払合意」という。)をしたうえ、昭和五九年五月一日から昭和六〇年四月末日までの間(但し、別紙被告目録一記載の被告は昭和五九年五月一日から同年一一月末日までの間である。以下、両期間を「本件期間」という。)を含む期間、豊田商事の営業担当者として右営業に従事した。

3 被告らの受ける本件歩合報酬は、客から金地金売買代金として受け入れた金額(以下、「受入金」という。)及び従前からの純金ファミリー契約を更新継続させて金額に応じて支給されるもので、営業担当者のうち営業管理職に対しては自己の管理下における営業社員の売上額の〇・五パーセントないし一パーセント、外勤営業社員に対しては自己の売上額のうち四〇〇万円を超過する部分の一二パーセント(昭和五九年一一月一日以降)ないし一五パーセント(昭和五九年一〇月末日まで)が支給されていたうえ、ノルマ達成賞等の賞金も支給されていた。

4 被告らはいずれも本件期間中、豊田商事から別表1及び2の「A固定給」欄記載の各固定給(基本給及び各種手当)の他、本件歩合報酬として別表1及び2の「B歩合報酬」欄記載の各歩合報酬(各種賞与等を含む。)からこれに対応する同表「C源泉税額」欄各記載の源泉徴収所得税相当額を控除した同表の「D請求額」欄各記載の残額(以下、「本件請求額」という。)の支払を受けていた。

三  本件歩合報酬支払合意の無効

1 本件商法の概要

豊田商事は、全国数十か所の一流場所に豪華な設備、調度類を整えた支店、営業所を設置(倒産時には三五支店、二五営業所)し、各支店、営業所にテレフォンレディと称する女子従業員を数十ないし百数十名、内勤、外勤の営業社員を数十名配置していた。その営業方法は、テレフォンレディが無差別に電話をかけて金ないし白金(以下、金地金という。)への投資を勧誘し、多少でも見込みのある客を営業社員に連絡し、営業社員が即刻客宅を訪れ、金地金の三大利点と称して金地金に対する投資が安全、有利である旨を説いてその購入を勧誘し、客が乗り気になると、当該金地金を豊田商事に賃貸する方が安全、有利であると説いて、純金ファミリー契約の締結を勧誘し、客がこれに応じると、金地金の売買契約と純金ファミリー契約とを合わせて締結し、客から当日の時価による金地金代金及び手数料(代金の二ないし五パーセント)の合計額から契約時に支払われるべき賃借料を控除した金額を受領し、客に対し、豊田商事発行の純金ファミリー契約証券を交付するというものであった。

2 本件商法の反社会性

(1) 現物まがい性

本件商法は、金地金に対する投資の安全・有利性を客に信じ込ませることを基本としていたが、豊田商事は現実に顧客の購入量に相応する金地金の現物を保有することは不可能であり、その意思もなかった。そこで、豊田商事は客に金地金を売りながら、実際には金地金を引き渡さないで済む純金ファミリー契約を締結し、金地金売買を行っていたのであるから、右売買は「現物まがい取引」であり、本質的に欺罔性、詐欺性を有していた。のみならず、豊田商事は本件商法が純金ファミリー契約証券を交付して金銭を預かるものであるにもかかわらず、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下、「出資法」という。)の「預り金」ではないとしていた。

(2) セールス手法

豊田商事の営業社員らは、テレフォンレディによる無差別電話勧誘によって、金投資に無知な老人や主婦等の社会的弱者を選び、これらの者に対し、金投資の利点(「金は現金と同じ」、「税金がかからない。」、「必ず値上がりする」)を誇張し、異常に長時間執拗に勧誘を続ける等、著しく不当、反社会的なセールス手法、巧妙なセールス手法を駆使していた。豊田商事は管理職をして営業社員らに対し、入社時の研修及び毎日の朝礼等の機会に右セールス手法の指導、訓練を受けさせていた。右セールス手法は昭和六一年五月二三日公布の特定商品等の預託等取引契約に関する法律に照らし違法性が明白である。

(3) 本件商法の破綻の必然性

本件商法では、客に対し、高率の賃借料を支払うことになっているうえ、本件商法を遂行するためには多数の営業担当者を雇用し、豪華な店舗を構える等多額の経費を要した。豊田商事は、客からの受入金から経費を差し引いた残額を運用して営業資金を得ているとしていたが、そのために必要な年数十パーセントの利益率のある運用は不可能であり、現に営業開始以来、各期とも巨額の損失を生じていた。豊田商事の本件商法による営業は本来、経済性を無視したものであり、損失のみを生じる構造になっていた。豊田商事が数年間存続し得たのは、巧妙なセールス手法により次々と客から受入金を拡大し、それにより経費と損失を補ってきたからであって、豊田商事の営業は客からの預り金を食い潰すことによってのみ成立するものであった。それゆえ、豊田商事が早晩破綻することは経済的・社会的に当然のことであり、当初から予測されていたのに、豊田商事はこれを秘したうえ、金地金の返還と賃借料の支払を確約して本件商法を推進したのであるから、著しく反社会的、犯罪的であった。

(4) 返還引き延ばし

豊田商事は客の求めにもかかわらず、純金ファミリー契約に基づく金地金返還ないし時価相当額の返還をあらゆる方法で引き延ばし、できる限り多額の資金を集め、破綻時期を遅らせようと図った。右は、特定商品等の預託等取引契約に関する法律五条に該当し、違法である。

右のとおり、豊田商事は犯罪行為ともいうべき手段により大衆から巨額の資金を収奪していたのである。

3 本件商法と本件歩合報酬支払合意の関係

(1) 被告らは、営業担当者の中核ないし第一線として、本件商法の中心部分を直接担当遂行していたのであって、本件歩合報酬は被告らが自ら又は部下を指揮監督して客から収奪した受入金に基づいて支給された。そして、被告らは高額な歩合報酬を得るために、前記のようなセールス活動に狂奔したのであって、被告らには十分な固定給が支給されていたことを合わせ考えると、本件歩合報酬は通常の労働に対する対価或は労働者の生活維持のための給付たる性質を有せず、もっぱら被告らが豊田商事の反社会的、犯罪的行為に加担したことに対する対価であるとともに被告らをしてそれに精励されるための奨励金であった。

(2) しかして、本件歩合報酬は客からの受入金を約定に反して流用し直接配分したもので、豊田商事の犯罪的行為による取得金の「山分け」的一部であり、受入金の相当部分が直ちに費消される結果、豊田商事の資産状態は著しく悪化し、客に対する純金ファミリー契約の履行は益々困難になった。かように本件歩合報酬支払合意は第三者たる客の犠牲において高額の利得を被告らに取得せしめるものである。

4 公序良俗違反

(1) 本件歩合報酬は、極めて違法性の高い本件商法推進の対価であり、本件商法の原動力になっていたものであるうえ、客からの受入金を食い潰すという実質を有していたのである。したがって、本件歩合報酬支払合意は、社会的妥当性を欠き、公序良俗に反することが極めて明白であるから、被告らの主観的認識のいかんを問わず、合意成立時から無効である。

(2) 仮に、民法九〇条の解釈上、被告らの主観的事情が必要であるとしても、被告らは営業担当者として本件商法の中核を担当し遂行した者であり、いずれも本件商法の内容、特質を知悉していた。殊に、本件期間の前後には本件商法に対する非難攻撃が、多数の客からはもとより、新聞、テレビ等のマスコミや、国会、官庁、弁護士グループ等からも広く激しく継続して加えられていたのであるから、被告らは、当然、右批判を通じて本件商法の内容、特質を知っていた。仮に、被告らが右の諸点につき現実の認識を欠いていたとしても、その認識の欠如は被告らの重過失によるというべきである。したがって、本件歩合報酬支払合意は公序良俗に反し無効である。

四  不当利得返還請求

豊田商事が被告らに対し、本件期間の報酬として支給した本件歩合報酬は、前記のとおり公序良俗違反の無効な支払合意に基づくものであるから、法律上の原因を欠き、かつ、被告らは少なくとも右無効を招来する基礎事実を知り、又は重過失により知らなかった。

五  よって、原告は、民法七〇四条に基づき、被告らに対し、別表1、2記載の同被告らに対応する本件各請求額及びこれに対するいずれも本件訴状送達の日の後である平成元年二月九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

(請求原因に対する認否及び主張)

【昭和六三年(ワ)第三三八九号事件、以下、「第一事件」という。】

(一〇・被告武田盛昭、頭書番号は各事件の被告番号である。)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二ないし四の事実は不知ないし争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九〇号事件、以下、「第二事件」という。】

(九・被告齋藤孝仁)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、1ないし3の事実は認め、その余の事実は知らない。

3  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(一九・被告山地雅子、二一・被告須郷淑子)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2、4の事実は認める。同3のうち営業管理職に関する部分は知らないが、その余の事実は認める。

3  同三1の事実は認める。同2のうち、(1)の事実、(2)の事実のうち勧誘方法が原告主張の虚偽を含むこと及び違法の評価の明確性は否認し、その余の事実は認める。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(二〇・被告宮保文徳)

請求原因事実は明らかに争わない。

(二四・被告古谷光栄)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1の事実は認める。同2の事実は否認する。同3のうち、営業管理職の報酬は知らないが、その余の事実は認める。4の事実は否認する。

3  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(三〇・被告春原篤)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は争う。

3  同四の事実は争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九一号事件、以下、「第三事件」という。】

(二一・被告金崎京子)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三1の事実は認める。同2のうち、昭和六一年五月二二日公布の特定商品等の預託等取引契約に関する法律が制定交付されたことは認め、その余の事実は知らない。同3、4の事実は否認ないし知らない。

3  同四の事実は争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九二号事件、以下、「第四事件」という。】

(一・被告小原義一、六・被告大津則子)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1のうち、賃借料の支払方法は知らない、その余の事実は認める。同2の事実は認める。同3のうち、歩合報酬支給基準の詳細は知らない、その余の事実は認める。同4のうち、豊田商事の営業に従事し、歩合報酬の支払を受けていたことは認め、その余の事実は明らかに争わない。

3  同三の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(八・被告幸田秀博)

請求原因事実は明らかに争わない。

(一二・被告中島貞次)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、本件歩合報酬を受領したことは認め、その余の事実は知らない。

3  同三の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(二一・被告関谷始)

請求原因事実のうち、一2の事実は認め、二4の事実は否認し、その余の事実は明らかに争わない。

(二五・被告梁瀬芳子)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同四の事実は争う。

(三四・被告藤岡良子、五六・被告川嶋和則)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二の事実は認める(但し、同1のうち、設立当初の豊田商事の営業内容は知らない。)。

3  同三1の事実は認める。同2(1)の事実は否認する。同(2)のうち、豊田商事が営業社員に対し、入社時に研修を行い、その後も指導、訓練を続けていたことは認めるが、その余の事実は否認する。同(3)の事実は否認ないし争う。同(4)の事実は否認する。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(三七・被告横山章)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二の事実は明らかに争わない。

3  同三の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(三八・被告黒澤隆之)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、2、4の事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同三の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(五一・被告小川宏巳)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、3、4の事実は認める(但し、昭和五九年九月以前の豊田商事の営業内容については知らない)。同2のうち、原告主張の全額について歩合報酬の支払合意をした事実は否認し、その余の事実は認める。

3  同三1のうち、勧誘対象者の選択等に関する部分は知らない、その余の事実は認める。同2(1)の事実は知らない、同(2)の事実は否認する、同(3)、(4)の事実は知らない。同3の事実は否認する。同4の事実は不知ないし否認する。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告は千葉地方裁判所において、二五二万円で客らと和解した。

(五四・被告矢口美砂代)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三の事実は否認する。

3  同四の事実は争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九三号事件、以下、「第五事件」という。】

(三・被告岩本圭二)

1  請求原因一の事実は明らかに争わない。

2  同二1、3の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める(但し、昭和六〇年二月末日限り退社した。)。同4の事実は認める(但し、昭和五九年一二月以降の報酬の支払を除く。)。

3  同三の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(五・被告高林真一郎)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1の事実は認める。同2のうち、本件期間、営業担当者であったことは認めるが、その余の事実は否認する。同3、4の事実は知らない。

3  同三1のうち、支店及び営業所の設置状況、原告主張のとおりテレフォンレディ及び営業社員を配置して営業に当たらせたことは知らない、その余の事実は認める。同2(1)の事実は否認する。同(2)のうち、金の三大利点を述べ勧誘したことは認め、その余の事実は否認する。同(3)、(4)の事実は知らない。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(六・被告中根文子、一一・被告根岸教子、一三・被告高松仁美、二四・被告成瀬恵子、二九・被告小林孝司、四〇・被告山下雅子、四七・被告雨池千代子、五〇・被告横江幸男)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、設立当初の豊田商事の営業内容は知らない、その余の事実は認める。

3  同三1の事実は認める。同2(1)の事実は否認する。同(2)のうち、豊田商事が営業社員に対し、入社時に研修を行い、その後も指導、訓練を続けていたことは認めるが、その余の事実は否認する。同(3)の事実は否認ないし争う。同(4)の事実は否認する。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(一〇・被告横關幸子)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、1、2の事実は認め、その余の事実は否認又は知らない。

3  同三1の事実は知らない。同2のうち、(2)、(3)の事実は知らない、その余の事実は否認又は知らない。同3、4の事実は知らない。

4  同四の事実は争う。

(一二・被告田中裕子)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三1の事実は認める。同2(1)、(2)の事実は知らない。同(3)の事実は否認する。同(4)の事実は否認する。同3の事実は否認する。同4の事実は知らない。

3  同四の事実は争う。

4  主張

被告は昭和六二年八月二六日、東京地方裁判所八王子支部において客と和解した。

(三一・被告白川清至)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1、2の事実は認める。同3のうち、歩合比率等の数字については知らないが、その余の事実は認める。同4の事実は認める。

3  同三1の事実は概ね認める。同2の事実は不知ないし否認する、同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告は昭和六一年四月一六日、六〇〇万円で客と和解した。

(三三・被告松岡寛)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は否認する。

3  同四の事実は争う。

(三四・被告田中研一)

請求原因一2、二4のうち、原告主張の歩合報酬の支払を受けていたことは認め、その余の事実はすべて争う。

(四六・被告安達伸國)

1  請求原因一1の事実は知らない。同2の事実は認める。

2  同二ないし四の事実は否認ないし争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九四号事件、以下、「第六事件」という。】

(一七・被告中島惠子)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1のうち、設立当初の豊田商事の営業内容は知らない、その余の事実は認める。同2の事実を否認する。同3、4の事実は認める(但し、同4の金額は知らない。)。

3  同三1の事実は概ね認める。同2の事実のうち、(1)、(3)の事実は知らない、その余の事実は否認する。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告は名古屋地方裁判所において、金一〇〇〇万円で客と和解した。

(一八・被告小川聖哉)

被告中島惠子の認否及び主張のとおり(但し、請求原因二4の事実は認める。)。

(四〇・被告家城光男)

請求原因事実はすべて否認する。

(四三・被告野尻達雄)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1のうち、昭和五九年二月以前の豊田商事の営業内容は知らない、その余の事実は認める。同2の事実は概ね認める。同3、4の事実は認める。

3  同三1の事実は概ね認める。同2(1)のうち、本件商法が金地金に対する投資の安全・有利性を客に信じ込ませることを基本としていたことは認め、その余の事実は知らない。同2(2)のうち、勧誘方法が原告主張の社会的弱者を対象としたこと、虚偽を含んでいたこと、異常に長期間粘ること等の著しく不当・反社会的なものであったことは否認し、昭和六一年五月二三日公布の特定商品等の預託等取引契約に関する法律に照らし、違法性が明白であることは知らない、その余の事実は認める。同(3)の事実は知らない。同(4)のうち、あらゆる方法で引き延ばしたことは否認し、その余の事実は知らない。同3の事実は不知ないし否認する。

4  同四の事実は争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九五号事件、以下、「第七事件」という。】

(七・被告滝沢俊治)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1の事実は認める。同2の事実は否認する。同3のうち、ノルマ達成賞等の賞金に関しては知らない、その余の事実は否認する。同4の事実は知らない。

3  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(八・被告伊東邦夫)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、1、3の事実は否認し、その余の事実は知らない。

3  同三のうち、2(3)の事実は知らない、その余の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告は新潟地方裁判所で四〇〇万円で客と和解した。

(一三・被告荒井忍)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2の事実は認める。同3の事実のうち、管理職の歩合給及びノルマ達成賞については知らない、その余の事実は認める。同4の事実は認める。

3  同三のうち、1の事実は認め、その余の事実は争う。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告は新潟地方裁判所において金五〇〇万円で客と和解し、内金四〇〇万円を支払済みである。

(一九・被告嶋田勇次)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1ないし3の事実は明らかに争わない。同4のうち、昭和六〇年四月、五月分の歩合報酬を受領したことは否認し、その余の事実は明らかに争わない。

3  同三、四の事実は明らかに争わない。

(二一・被告乾利憲)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1ないし3の事実は明らかに争わない。同4のうち、歩合報酬は昭和六〇年三月分まで受領したことは認め、その余の事実は否認する。

3  同三、四の事実は明らかに争わない。

(二五・被告佐藤勝司)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三の事実は否認する。

3  同四の事実は知らない。

【昭和六三年(ワ)第三三九六号事件、以下、「第八事件」という。】

(一四・被告松倉和子)

1  請求原因一1の事実は知らない。同2の事実は認める。

2  同二のうち、原告主張の歩合報酬の支払を受けたことは認め、その余の事実は争う。

3  同三1のうち、営業社員が訪問先で本件契約を締結したことは否認し、その余の事実は知らない。同2のうち、(1)、(2)の事実は否認し、その余の事実は知らない。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(四三・被告杉原次生)

請求原因のうち、一2の事実、被告が原告主張の報酬を受領したことは認め、その余の事実は明らかに争わない。

(五一・被告茨木健一)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二のうち、1の純金ファミリー契約の内容、2、3の事実は認め、その余の事実は知らない。

3  同三1のうち、原告主張の豊田商事が設置した支店営業所の詳細、テレフォンレディ、内勤外勤の営業社員の配置関係等に関する部分は知らない、その余の事実は認める。同2の事実は認めるが、評価ないし法的主張は争う。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

5  主張

本件歩合報酬支払は不法原因給付である。

(五四・被告三瀬清治)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二のうち、原告主張の歩合報酬の金員を受領したことは認め、その余の事実は知らない。

3  同三の事実は知らない。

4  同四の事実は争う。

(五五・被告田淵和子)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二、三の事実は知らない。

4  同四の事実は争う。

【昭和六三年(ワ)第三三九七号事件、以下、「第九事件」という。】

(一・被告味元辰廣)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2の事実は認める。同3のうち、本件歩合報酬が客から金地金売買代金として受け入れた金額や従前からの純金ファミリー契約を更新継続させた金額に応じて支給されたことは認め、その余の事実は知らない。同4の事実は知らない。

3  同三1のうち、豊田商事の女子職員が原告主張のような方法で投資を勧誘したこと、営業社員がその家を訪問したこと、金の三大利点を説いて購入を勧めたこと、客が勧誘に応じると豊田商事所定の用紙により金地金売買契約を締結したことは認め、金地金の売買契約と純金ファミリー契約とを併せて締結させたことは否認し、その余の事実は知らない。同2(1)のうち、現物まがい性の主張は知らない。同(2)のうち、勧誘方法が金投資に無知な老人や主婦等の社会的弱者を対象としたこと、異常に長時間粘るなど著しく不当、反社会的なものが多く含まれていたこと、原告主張の法律に照らし、違法性が明確であることは否認し、その余の事実は認める。同(3)、(4)の事実は不知ないし争う。同3の事実は不知ないし争う。同4の事実は争う。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告茨木のとおり。

(二・被告日浦富子)

請求原因事実はすべて否認する。

(四・被告上田修)

1  請求原因一1の事実は明らかに争わない。同2の事実は認める。

2  同二1のうち、設立当初の豊田商事の営業内容は知らない、その余の事実は認める。同2の事実は認める。同3の事実は知らない。同4の事実は否認する。

3  同三1の事実は認める。同2ないし4の事実は知らない。

4  同四の事実は争う。

(一一・被告平田雅治)

請求原因事実はすべて否認する。

(一三・被告小林輝明)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、3の事実は認める。同2のうち、昭和五九年末日まで豊田商事の営業担当従業員として勤務していたことは認め、その余の事実は明らかに争わない。同4のうち、歩合報酬等を受領したことは認めるが、金額は否認する。

3  同三1の事実は概ね認める。同2のうち、(1)の事実は知らない、その余の事実は否認する。同3、4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(一五・被告木曽幸宗)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1のうち、豊田商事の設立当初の営業内容は知らないが、その余の事実は認める。同2の事実は認める。同3のうち、本件歩合報酬は客から金地金売買代金として受け入れた金額及び従前からの純金ファミリー契約を更新継続させた金額に応じて支給されるものであること、原告主張のとおり営業社員に対しては同報酬が支給され、賞金も支給されていたことは認め、その余の事実は知らない。同4のうち、歩合報酬等を受領(金額を除く。)したことは認め、その余の事実は争う。

3  同三1のうち、豊田商事のテレフォンレディが不特定多数人に対し、無差別に電話して金地金への投資を勧誘し、多少とも見込みのある反応が得られた客に関する部分、及び豊田商事が原告主張の支店等を設置する等して営業に当たらせたことは知らない、その余の事実は明らかに争わない。同2(1)の事実は否認する。同(2)のうち、セールス手法につき原告主張の訓練を受けていたことは認め、その余の事実は争う。同(3)、(4)の事実は争う。同3の事実は不知ないし否認する。同4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(二一・其竹日出男)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2、4の事実は認める。同3のうち、本件歩合報酬が金地金売買代金として受け入れた金額や更新継続させた金額に応じて支給されることは認め、その余の事実は知らない。

3  同三1のうち、原告主張の方法で女子従業員が投資を勧誘したこと、営業社員が客を訪問したこと、金の三大利点を説いて購入を勧めたこと、客が勧誘に応じると所定の用紙により金地金売買契約を締結したことは認め、金地金売買と純金ファミリー契約を併せて締結させたことは否認し、その余の事実は知らない。同2(1)の事実は知らない。同2(2)ないし(4)の事実、同3、4の事実は不知ないし争う。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告茨木健一のとおり。

(二八・被告佐田利夫)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2の事実は認める。同3のうち、豊田商事の歩合報酬が客から金地金売買代金として受け入れた金額や従前からの純金ファミリー契約を更新継続させた金額に応じて支給されたことは認め、その余の事実は知らない。同4の事実は認める。

3  同三1のうち、豊田商事の女子従業員が原告主張の方法により客を勧誘したこと、営業社員が客宅を訪問したこと、金の三大利点を説いてその購入を勧めたこと、客が勧誘に応じると豊田商事所定の用紙により金地金売買契約を締結したことは認め、金地金売買契約と純金ファミリー契約とを併せて締結させたことは否認し、その余の事実は知らない。同2(1)の事実は知らない。同(2)のうち、勧誘方法が原告主張の社会的弱者を対象としたこと、異常に長時間粘るなど、著しく不当、反社会的なものが多く含まれていたことは否認し、原告主張の法律に照らし違法性が明確であることは争い、その余の事実は認める。同3、4の事実は不知ないし争う。

4  同四の事実は争う。

5  主張

被告茨木健一のとおり。

(三五・被告車田隆光)

請求原因事実はすべて否認する。

(三八・被告對馬ヤエ、旧姓神)

被告味元辰廣の認否のとおり(但し、請求原因二4の事実は認める。)。

(四〇・被告石井昭彦)

請求原因事実はすべて否認する。

【昭和六三年(ワ)第三三九八号事件、以下、「第一〇事件」という。】

(二・被告永仮幸一)

請求原因のうち、一2、二4の事実は認め、その余の事実は明らかに争わない。

(一七・被告須崎康洋)

1  請求原因一、二の事実は認める。

2  同三1の事実は認める。同2(1)の事実は否認する。同(2)のうち、セールス手法の指導訓練、勧誘は長時間粘ったことは認め、その余の事実は争う。同(3)の事実は否認する。同(4)のうち、引き延ばしについては認め、その余の事実は否認する。同3のうち、本件歩合報酬の支払を受けていたことは認め、その余の事実は否認する。同4の事実は否認する。

3  同四の事実は争う。

(二三・被告菊池一富)

1  請求原因一の事実は認める。

2  二1のうち、被告が入社した昭和五九年五月以前の豊田商事の営業内容については知らない、その余の事実は認める。同2ないし4の事実は認める。

3  同三1の事実は概ね認める(但し、被告は純金ファミリー契約を客に対して積極的に勧めたことはない。)。同2ないし4の事実は否認する。

4  同四の事実は争う。

(二四・被告荒田比出男)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1、2の事実は認める。同3のうち、営業管理職に対して部下の営業担当従業員の売上の〇・五パーセントないし一パーセントが支給されたことは知らない、その余の事実は認める。同4の事実は認める。

3  同三、四の事実は争う。

(二八・被告岡田弘子、旧姓白尾)

請求原因のうち、一2、二4の事実は認め、その余の事実は否認する。

(三一・被告橋本健)

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二1の事実は認める。同2のうち、原告主張の歩合報酬支払合意をしたことは否認し、その余の事実は認める。同3のうち、営業管理職に対する歩合・ノルマ達成賞は知らない、その余の事実は明らかに争わない。同4の事実は認める。

3  同三、四の事実は争う。

4  被告は客との間で、昭和六〇年九月二七日に三〇万円、その後、二年間に渡り二万円ずつ返済することで和解した。

(抗弁)

1  相殺

(被告春原篤)

被告は豊田商事に対し、昭和六〇年五月、六月の未払給料債権七四万円、純金ファミリー契約による損害賠償債権八五九万二三九六円、客に対する純金ファミリー契約賃借料等の立替金債権等合計金九三三万二三九六円の反対債権を有していたので、平成元年五月一一日の第四回口頭弁論期日(以下、「第四回口頭弁論期日」という。)において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告金崎京子)

被告は、豊田商事に対し純金ファミリー契約による損害賠償債権一一六〇万二五〇〇円を有していたので、昭和六三年七月二二日の第一回口頭弁論期日(以下、「第一回口頭弁論期日」という。)において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告藤岡良子)

被告は豊田商事に対し、給料債権九九万四六六〇円、立替金債権九九万九〇〇〇円及び純金ファミリー証券債権一七二一万八九二〇円合計金一九二一万二五八〇円の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告川嶋和則)

被告は豊田商事に対し、純金ファミリー証券債権二二万九〇九五円及び給料債権七六万円合計九八万九〇九五円の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告中根文子)

被告は豊田商事に対し、昭和六〇年五月、六月分の給料債権七四万三五〇〇円、立替金債権一七一万三〇〇〇円合計金二四五万六五〇〇円の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告根岸教子)

被告は豊田商事に対し、昭和六〇年四月二九日から同年六月二八日までの給料債権八八万一九〇〇円、立替金債権二八九万〇五〇〇円合計金三七七万二四〇〇円の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告高松仁美)

被告は豊田商事に対し、給料債権九〇万円(昭和六〇年五月、六月分)を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告成瀬恵子)

被告は豊田商事に対し、給料債権九八万一〇〇〇円(昭和六〇年五月、六月分)を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告小林孝司)

被告は豊田商事に対し、給料債権一八二万四六〇〇円(昭和六〇年五月、六月分)を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告山下雅子)

被告は豊田商事に対し、純金ファミリー証券債権六六九万五六七〇円、給料債権七七万二二〇〇円(昭和六〇年五月、六月分)、立替金債権一九〇万六四九〇円合計九三七万四三六〇円の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告安達伸國)

被告は豊田商事に対し、給料債権一九〇万円(昭和六〇年五月、六月分)、純金ファミリー契約による損害賠償債権八八二万七六九〇円、立替金債権六二万六五〇〇円合計金一一三五万四一九〇円の反対債権を有していたので、第四回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告雨池千代子)

被告は豊田商事に対し、立替金債権二八三万五〇〇〇円、給料債権七七万四二〇〇円(昭和六〇年五月、六月分)の反対債権を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告横江幸男)

被告は豊田商事に対し、給料債権一〇二万三三四〇円(昭和六〇年五月、六月分)を有していたので、第一回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(被告日浦富子)

被告は豊田商事に対し、給料債権九〇万円(昭和六〇年五月、六月分)、豊田商事から購入したゴルフ会員権及び純金ファミリー契約証券債権四二一〇万八四九〇円合計金四三〇〇万八四九〇円並びにこれらに対する年五分の割合による損害金の反対債権を有していたので、平成元年六月二二日の第六回口頭弁論期日において対当額で相殺する旨の意思表示をした。

2 利得消滅

(被告春原篤)

被告は、国税八一万六九〇〇円、市道民税五四万一九〇〇円合計金一三五万八八〇〇円を超過払したので、同額の利得が消滅した。

(被告小原義一、同大津則子)

被告は本件歩合報酬を営業社員の賞金や支店の経費として使用したので、一部利得が消滅した。

(被告矢口美砂代)

被告は本件歩合報酬を営業の諸経費、豊田商事の立替金等としてすべて使用したので、利得は消滅した。

(被告田中研一)

被告は必要経費等として歩合給の三分の二を使用したので、同額の利得は消滅した。

(被告安達伸國)

被告は昭和五九年度分の国税二〇八万七一七六円、市県民税七三万五七二〇円合計二八二万二八九六円を超過払したので、同額の利得は消滅した。

(被告滝沢俊治)

被告は、顧客の立替金、返済金並びに純金ファミリー契約証券購入資金として合計七三六万円を支払ったので、同額の利得は消滅した。

(被告其竹日出男)

被告は本件歩合報酬を左記のとおり必要経費として使用したので、利得が消滅した。

(1) 支店長藤原某に一ケ月五万円ないし一〇万円

(2) 顧客への立替金一日一万円ないし三万円

(3) 営業テレフォン懸賞金一ケ月一〇万円

(4) 飲食代金、パーティ代金一ケ月五〇万円

(被告菊池一富)

被告は、<1>豊田商事の企画した客の旅行費用として約六〇万円、<2>純金ファミリー契約の解約金五〇〇万円、同支払約束金二〇〇万円、<3>同被告及び部下の交通費、宿泊費、部下の担当した純金ファミリー契約解約金を支払ったので利得は存しない。

(被告荒田比出男)

荒田は、既に金二六七万五〇〇〇円を豊田商事に払戻しているので利得は存しない。

(被告橋本健)

被告は他の営業社員の歩合給支払に充てるべく、本件歩合報酬の内金二〇〇万円を使用し、昭和五九、六〇年度に諸税約四〇万円を支払ったので、同額の利得は消滅した。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実はすべて否認する。

第三 証拠<証拠>

理由

一  請求原因事実は、被告宮保文徳、同幸田秀博、同杉原次男及び同永仮幸一において明らかに争わないから自白したものとみなす(但し、請求原因一2、二4の事実は、被告杉原次男、同永仮幸一の関係においては当事者間に争いがない。)。

二  <証拠>を総合すれば、請求原因一の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(但し、一部当事者間では争いがない。)。

三  <証拠>を総合すれば、請求原因二の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(但し、一部当事者間では争いがない。)。

四  前記認定の事実、<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができる。

1(1) 豊田商事の純金ファミリー契約とは、豊田商事が顧客に売却した金地金を一年ないし五年間預かり、その間顧客に対し金地金の「賃貸料」として売買代金の年一〇パーセントないし一五パーセント(五年契約では賃借料が売買代金の七五パーセントに及ぶ。)の現金を支払い、満期に同種・同銘柄・同数量の金地金を返還することを内容とするものである。豊田商事は昭和五六年頃から金地金の売買契約と純金ファミリー契約を一体とする本件商法を採用し、顧客の獲得、営業の拡大を図った。

(2) 豊田商事においては、本件商法による売上金額と営業社員に対する報酬は密接な関係にあり、固定給月額三〇万円の他「導入ゲージ」(五年契約では売上金額から第一回目の前払賃借料を控除した金額、一年契約では同金額の半額をいう。)と「継続ゲージ」(満期の到来した純金ファミリー契約を更新させた場合、五年契約では当該金額、一年契約では当該金額の半額をいう。)の合計金額を「総合ゲージ」と称し、総合ゲージに応じた歩合報酬支払基準による歩合報酬が支払われていた。被告らは豊田商事に入社した際、同基準によって歩合報酬を受けることを明示又は黙示に合意し、右総合ゲージ達成金額に応じた本件歩合報酬を支給されていた。すなわち、外勤の営業社員は研修社員(日給四〇〇〇円)として豊田商事の内容・方法等の教育を約一〇日間受けて見習社員(日給一万円)となり、月間三〇〇万円の販売目標を達成することによって正社員(月給三〇万円以上)に昇格し、その後、二か月間に八〇〇万円、一六〇〇万円、二四〇〇万円、三二〇〇万円、継続的な三二〇〇万円以上の販売目標を達成することによって、順次、ヘッド、主任、係長、係長・課長待遇等の役職に昇進する体制になっていた。また、営業社員は前記月額固定給三〇万円のみでなく、自己の担当した契約の総合ゲージ四〇〇万円を超過する部分について歩合給(昭和五九年一〇月まで一五パーセント、同年一一月以降一二パーセント)を取得し、更に各職階級に応じて二万円から一五万円の諸手当が毎月支給され、販売目標達成額と歩合給等の増加及び昇進が連動しており、全国二〇位以内の総合ゲージを取得した営業社員については二〇万円から六〇万円の賞金を支給(表彰)していた。しかし、営業社員が各地位に応じた業績を継続できない場合には降格し、営業社員がより高額の総合ゲージの獲得を目指して本件商法を推進することを煽っていた。また、内勤の管理職については支店長のもとに部長、次長、課長等の職制をとり、総合ノルマの五〇パーセント(昭和五九年一〇月までは四〇パーセント)を達成・維持すると支店長、次長、部長、課長に対し、月間総合ゲージの〇・五ないし一パーセントの歩合給・管理職手当(前三者は支店の、後者はその掌握する課の月間販売金額を算定基礎とする。)が支給されていたうえ、日割の販売目標額を達成すると課長以上に六万円の賞金が支給されていた。

(3) 以上により、被告らが得た本件歩合報酬は前記のとおり極めて高額であった。

2(1) 豊田商事は、全国的にほぼ同一のセールス手法に関する社員教育を実施していた。すなわち、豊田商事は被告ら営業社員に対する約一〇日間の研修の際、金に関する知識、豊田商法のセールス手法の三大特色(<1>純金は現金と同じであり何時でも何処でもその日の相場で換金できること、<2>純金は税金がかからないこと、<3>純金は年平均二〇パーセントは値上がりし他の利殖よりも有利であること、以下、「金の三大利点」という。)及び顧客を勧誘する際の技術等をビデオ等により指導したのみならず、「五時間トーク」を中心に「居直り手法」、「過剰サービス」、「泣き落とし戦術」、「キャッチボール」(顧客の前で営業社員が上司に電話をし、金の在庫はないが、特に右顧客のため無理をして都合をつけるという趣旨の芝居をし、顧客を煽る手段)等の勧誘行為を実演させたり、客を豪華な設備の施された支店等に同行して信用させる方法等を徹底的に教育していた。

(2) その後、被告らは営業を担当することになるが、その際は先ず、テレフォンレディと称する女子従業員が不特定多数の者に対し、無差別に電話をかけ、応じた客らに対し、金地金の購入を勧誘し、氏名、資産状態、家族関係等をできる限り聞き出して面談用紙を作成し、これに基づき営業社員らが、管理職の指示を受けて一人又は他の者と客宅を訪れ、長時間執拗に、時には客らを営業所に同行し、金地金取引や純金ファミリー契約の有利性・確実性を強調する等断定的な利益誘導を行い、かつ右セールス手法を駆使して顧客を勧誘した。顧客の中には金地金取引につき無知・無経験の老人、家庭の主婦等が多く含まれていた。客が金購入資金を金融機関で調達(払戻、解約、借入)する場合には、営業社員が同行したり、手続を代行することもあった。また、純金ファミリー契約の期間更新についても全く同様の手法が用いられた。

(3) 豊田商事は各支店、支社ごとに部課長、支店長、支社長、及び本社の役員等が出席して部課長会議を開催し、営業方針等を指導・徹底し、その結果を踏まえて豊田商事の各支店等の管理職らは毎日の朝礼等において営業社員らに前日の販売達成額の伝達をしたうえ、当日の目標額を指示したり、社訓を読み上げる等して被告らの士気を鼓舞していた。

3(1) 豊田商事は金地金の現物の存在、金地金取引の安全性、有利性を強調して本件契約を締結していたため、客は購入して預けた金地金が豊田商事で現実に保有ないし運用されているものと信頼していた。しかるに、豊田商事は、見本以外に顧客の注文に見合う金地金を現実に保有せず、金地金の売買代金と購入数量に応じた手数料の合計金額から純金ファミリー契約の前払賃借料を控除した金額(以下、「受入金等」という。)を他の用途に費消し、単に客の購入代金に相当する金地金を現実に保有又は運用しているという外形的状況を装っていたに過ぎなかった。

(2) 豊田商事が本件契約に基づく債務を履行し、営業を続けるためには顧客から集めた資金によって、営業担当者等に対する高額の歩合報酬等を含む会社の営業経費、及び前記金地金の賃借料等をまかなうに足りる高収益を確実に上げる必要があった。ところが、豊田商事の設立(昭和五六年四月一一日)から倒産(同六〇年七月一日)までの損益計算は売上総額(約二〇二二億円)から顧客に賃借料等として返還した金員を控除した約一四七〇億円のうち、役員・営業担当者等に対する報酬・賞金等として約四一パーセント(約六〇〇億円)、これに販売費及び一般管理費等を含めると経費として約六〇パーセント(約八六〇億円)を支出し、その残額約六一〇億円についても有効な資産運用をしていなかった。そのため、豊田商事は破産宣告時までに約八三九億円の損失を計上し、破産財団の全資産を換価しても損失の補填は不可能であった。殊に、昭和五九年三月頃までに、人件費を含む販売費及び一般管理費は売上総額を五倍以上も上回る状態にあったから、営業を継続すればするほど赤字が累積する構造になっていた。のみならず、豊田商事は受入金等の一部を商品取引(百数十億円)や関連事業に対する貸付金(約五〇〇億円を純金ファミリー契約の賃借料年一五パーセントを下回る年一二パーセントの利率で融資)として投資していたが、いずれも収益性が悪く投下資本の回収は困難であり、豊田商事の損失を助長した。かのような状況のもとで、豊田商事が営業を継続するには、更に多くの純金ファミリー契約を自転車操業的に締結しなければならず、早晩破綻することは不可避であった。そこで、豊田商事は純金ファミリー契約の償還義務の履行を先送りにするため、昭和五八年七月頃からは期間五年の同契約を考案し、期間一年の同契約の返還時期が到来した場合にも営業担当者らが契約締結の際と同様に長時間勧誘する等して執拗に期間五年の純金ファミリー契約に切り替えさせるとともに(期間五年の純金ファミリー契約に基づく返還時期は豊田商事が倒産するまでに到来しなかった。)、昭和六〇年からはゴルフ会員権等のレジャー会員権の売買を考案したが、いずれも失敗に終わり、右会員権は財産的価値が乏しく換価性のないものであった。

4  豊田商事の本件商法に対し、新聞、テレビ等のマスコミは昭和五六年頃から顧客や関係機関による批判、被害の実態等、生起した問題を繰り返し報道していた。例えば、客による訴訟の提起(当該新聞報道の年月日、昭和五八年七月、九月、一〇ないし一二月、昭和五九年一ないし三月)、豊田商事社員による内部告発(昭和五八年三月、八月)、通産省も警報を発していること(同年五月)、各地で苦情が殺到し、トラブルが発生していること(同年八月、九月)、国税庁が調査を終了し、衆議院商工委員会でも追及がなされたこと(同年一〇月)、全国の弁護士等が豊田商事に対し、金の保有量、購入先・購入方法・運用方法等に関する公開質問状を発したが、責任ある回答は得られなかったこと(同年一〇月、一二月)、弁護士等が詐欺罪で刑事告訴する方針を打ち出し(昭和五九年一月)、刑事告訴したこと(同年三月)、衆議院予算委員会で再び取り上げられ、警察庁も調査していること(同年三月)等の豊田商事の問題点を指摘する批判報道が相次ぎ、その後も断続的に本件商法に対する批判・問題点が指摘されていた。豊田商事も右批判的な記事を昭和五九年四月頃まで逐次詳細に収集・整理していた。

以上の事実が認められ、前掲証拠中、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

五  右四認定の各事実によれば、豊田商事の営業の中核であった本件商法は所定の期間経過後顧客に対し、金地金の返還を約するものであるが、豊田商事は終始極少量しか金地金を保有せず、かつ資力も有しないため、所定の返還時期に金地金を返還できる確実な見込がないにもかかわらず、社会的相当性を逸脱した詐欺的ともいうべき手法によって多数の顧客から金地金の売買代金名下に金員を収奪したのであるから、本件商法は出資法二条に抵触するか否かを論じるまでもなく、違法であることは明らかである。

そして、本件歩合報酬は、被告らが違法な本件商法を推進し、或は従事した対価として顧客からの受入金等によって支払われるものであり、同被告らは高額な報酬を獲得するために一層本件商法を推進したのであるから、右報酬の支払合意は本件商法と密接な関係を有し、これを助長するものとして社会的妥当性を著しく欠いているうえ、被告らはマスコミ等による本件商法に対する批判報道が相次いでいる中で、自ら本件商法を推進し或は従事し、極めて高額な本件歩合報酬を得ていたのであるから、本件商法の違法性はもとより、本件歩合報酬支払合意の社会的妥当性の欠如を基礎づける事実の主要部分を認識していたものと推認することができる。

してみれば、本件歩合報酬の支払合意は公序良俗に反し無効であり、被告らが支払を受けた本件歩合報酬は民法七〇四条の不当利得に該当するといわねばならない。

六  被告らの主張・抗弁について

1  一部被告らは客らとの間で和解が成立した旨を主張するが、本件と訴訟物を異にするから右主張は失当である。

2  一部被告らは、本件歩合報酬支払合意が公序良俗に違反するとすれば、本件歩合報酬は不法原因給付であるから、原告の本件返還請求は失当である旨を主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、同被告らは本件歩合報酬を取得する目的で詐欺的な本件商法を推進、実行したものであり、その対価たる本件歩合報酬は顧客から収奪した受入金によって支払われたことが明らかであり、他方、原告は破産法上の固有の地位に基づき大部分が本件商法による被害者である破産債権者の被害回復のため、本件訴訟を追行しているが、破産債権者に対する最終配当率は約一〇パーセントに見越されるに過ぎず、他に適切、有効な手段がないため右破産債権者らは十分な被害の回復を得られないことが窺えるのである。

してみると、本件歩合報酬が不法原因給付であるとして原告の本件請求を拒むことは民法七〇八条が目的とする正義衡平の理念に反し、却って社会的妥当性を欠く結果となる。

したがって、同被告らの右主張は採用し難い。

3  進んで、一部被告らは、本訴請求に対し、未払報酬請求権、立替金(求償金債権)及び純金ファミリー契約証券に基づく請求権をもって対当額で相殺する旨(抗弁1)を主張する。

確かに、同被告らの相殺権の行使は、破産法一〇四条に直接抵触しない。しかしながら、同法九八条による相殺を認めることが著しく信義則に反し、債権者相互間の不公平な結果を招来する等の特段の事情がある場合には右相殺権の行使は権利の濫用に該当し、許されないと解するのが相当である。

そこで、前記認定の事実に照らすと、同被告らは豊田商事の社員として詐欺的本件商法を推進することにより右債権を取得したのであって、右相殺を許容することは詐欺的商法の被害者である前記破産債権者らの犠牲において優先弁済を受けるのと同様の結果を招き、著しく信義則に反し、破産債権者間の公平を害する。してみれば、同被告らの主張する相殺権の行使はその余の点について判断するまでもなく、権利の濫用に該当し、許されないといわねばならない。

4  また、一部被告らは利得が既に消滅した旨を主張する(抗弁2)。しかし、前記認定のとおり、同被告らは民法七〇四条の受益者であり、その不当利得返還義務の範囲は現存利益に留まらず、豊田商事から受けた利益に利息を付して返還することを要するのであるから、右主張は失当である。

七  結論

以上の次第であるから、原告が被告らに対し、民法七〇四条による不当利得返還請求権に基づいて別表1及び2記載の各被告に対応する各請求額欄記載の金員、及びこれに対する訴状送達の日で後であることが記録上明らかな平成元年二月九日から支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 市村 弘 裁判官 鹿島久義)

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